「それで俺も死んじゃったんだよ!悲恋でしょ?」

いかにも悲しいという顔の男が俺の目の前に俺と同じ顔を近づけた。

「だから?」
不機嫌を声に乗せても男は全く気が付かないフリをしてくれる所か

「起きた時泣いちゃった…」

メソメソとハンカチを取り出して泣き真似までしてくれた。
つか悲恋って意味分かってんのか。悲しいに恋と書いて悲恋だぞ?
だが、そんなことをこの目の前の男に言っても意味がないことは既に分かっている。

「…それで?」

聞きたくもなかったが、此処で聞かなくては後々もっと煩くなるであろう事が分かっていると勝手に口が滑ってしまう。

「慰めてv」

思わず足が出た。

「寝てろ」

床にへばりついてる男に冷ややかに言うと呻き声をあげながら腹を抱えてまるでゾンビかのように起き上がる。
男は咳き込みながら目に涙を浮かべつつ「起きたばっかなのにぃ〜」とメソメソしながらヨタヨタと腰にへばりついてくる。

蹴る気にもなれない俺はそのまま溜息を吐くと俺の腰に抱きついたままヘラヘラと幸せそうな顔をしている男にある程度の譲歩をした。

「ルーク!抱きつくんだったら、少しは俺が動き易いように抱きつけ!!」

俺の言葉にルークはふにゃけた表情を更に緩めて笑った。
「はぁ〜い」

言いながら俺の動き易いように腰に合った腕をそのまま上へ持っていき、肩を抱いてくる。
俺の言葉が余程嬉しかったのかルークは俺の首筋に頬ずりをしながら甘えてくる。

「ずっと一緒にいてね?」

唐突に耳の裏で謂われた言葉に多少驚かされたが、俺は小さく頷いてやった。













ルークは時折、過去の記憶を断片的に夢で見る。

ルークは、『ルーク』が死んでから4年後、やっと肉体が元に戻ったが、記憶は俺の中に残っている。
俺の中に戻ったフォニムからなる記憶はルークには決して戻らない。
だが、同じ振動数をもつフォニム同士が干渉しあって、時折夢に見るのかもしれない、と眼鏡野郎は言っていた。

ルークの肉体が何故元に戻ったのか、
それは俺が望んだからだ。
本来なら、俺に記憶だけを残して消えるだけだったが、俺は『ルーク』が元に戻る方法を探して忌み嫌うフォミクリーの生みの親に協力を願った。
眼鏡は俺の訪問に驚いてたが、俺だって、レプリカが元に戻る方法を探すなんて死ぬ直前にだって思わなかった。
だが俺の中にある『ルーク』の記憶を見て変わった。

『ルーク』はこの世界を嫌っていた。
『人間』を妬み、疑い、死んでるように生きていた。

あぁ、そう思っても仕方ない。

そう、思える経験をしていた。
だが、それでも、世界を『人間』を憎んではいなかった。



決して誰かを憎んではいなかった。

ただ、己の存在を呪い、救いを求めている子供だった。

自分は独りなんだって思い込んでいるただの子供だった。

そして、最後の最後までそう思い込んで、独りで死んでいった。


わかるんだ。


俺とお前は似てるから

死ぬ処を見られたくなかったんだろう。

誰にとかではなく、
単に嫌だったんだろう?

自分の死が
誰かに触れるのを恐れて

自分の生が
誰かに触れられるのが嫌で




ずっと逃げてたんだろう?


お前はあの小鳥を見て何を思ったんだ?



俺は、お前をこんな風にはさせたくはないと思った。

踏みにじられて死んでいく。

お前にそっくりで、そんな死に方をされたくはないと思った。

だから俺はあの時お前より先にレムの塔に行ったのにお前は追いかけてきて、結局独りでなんとかしようとしちまうし、俺の気持ちも考えろと言いたかった。


お前は、知るべきなんだ。

お前が絶望してた世界がどういうものなのか、
お前が救った世界がどんなとこなのか

俺はお前を独りにはしないし、楽にもさせてやらない。

そう思って『ルーク』の身体を戻す方法を探したらあっさり見つかった。
俺の中に戻ったフォニムは『ルーク』を形付けてたフォニム全て、という訳ではない。
だからローレライと共に音符帯へといった『ルーク』のフォニムをローレライの剣で集めればいいと、
分かっていながら何故実行しなかったのかを問い詰めたら、「記憶が戻らないのであれば『ルーク』ではない、『ルーク』のレプリカを造るのと同じことです。」と言い切られた。

それでも俺は実行した。
『ルーク』のフォニムだけを集めるのは簡単だった。元が同じだから引き寄せあうんだろう。

だが、身体が戻ったルークは俺を見て「だれ?」といって首を傾げた。
眼鏡の言葉を痛感させられた。
日常的な事は身体が覚えてるのか赤子同然ではなかったが、やはり違和感があった、インプリンティングなのか無条件に俺に懐き、それ以外の人間に対し極度に怯えていた。
それは日を増すごとに酷くなる。

特に昔の記憶を見るたびに

仕方ない。と思わざるを得なかった。


しかし、夢に記憶をみたからと言ってルークが『ルーク』になる事はなかった。


なんとも言えない虚無感と喪失感。
お前もずっとこんな気持ちで生きてきたんだな。


『ルーク』、お前は死ぬとき、最後に一体何を見たんだ…?



其処だけ、俺は知らない。



お前の記憶を持っていても、分からないんだ。


少しでも、お前にとっていいものは見れたのか?







『ルーク』



俺と、お前は似てる。


そして『ルーク』とルークも


でも、同じじゃないんだ





一つにはなれない…。




替わりなんてないのかも知れない…。





















































アッシュ、俺やっぱり『人間』は好きにはなれないよ。


でも、アッシュは好きだよ。

だから、アッシュの中にいられればそれでいいんだ。


ただそっとアッシュの記憶に寄り添って



『生きて』いられればそれでいいんだよ。